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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
それでも陣痛が激しい代りに時間は早かったのです。三時半に。私はSさんの手をじっと握っていました。」
堯の時は芳子は私の手を握っていた。
暫くすると芳子が云った。
「如何でした?」
「同じようで別に変りは無い。」
暫くすると芳子はまた云った。
「いけなかったのではありませんか。」
私はじっと芳子の眼を見守った。精神が張り切ったような朗らかな澄み切った眼だった。
暫くして私は云った。
「まだ大丈夫だ。然し覚悟はしていなければならない。」
芳子は首肯いた。
「帰る時に、Uさんの言葉では、今晩あたりがむずかしいということだった。」
芳子はまた首肯いた。
「いいかい。本当にしっかりしていなければならない時が来たんだ。どんなことがやって来てもじっとして居れるだけの心は養っておかなければならないと、僕がいつも云っていたのは此処のことだ。私達の出発が既に初めっから生命がけですからとお前はよく云って居たろう。あの気持ちをはっきり握っていなくちゃいけない。特にお前は今大事な身体だ。神経過敏にはなっていても、精神感動を起してはいけないんだ。いいかい、分るだろう。」
声は低かったが、私の言葉は怒鳴りつけるようだった。