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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
いやいやそういう合図めいた音は、それらの場所から起こるばかりでなく、次から次へ、奥から奥へ、次第次第に送りをなして、丹生川平の郷へまで、伝わり伝わって行くのであった。
飛騨というような山国にあっては、猛獣や毒蛇や山賊などに、しばしば人は襲われるもので、そういう場合の警報として、いろいろの里や、いろいろの郷や、さまざまの村に住居している、住民達は里別郷別に、木を叩くとか竹法螺を吹くとか、枯れ木に火をかけて煙りを上げるとか、そういうことをすることにしていた。
丹生川平の郷にあっては、木の幹を叩いて警報することが、それに当っているものと見える。
軽い危険の場合には、それに一致した叩き方をして、森林の中に散在して、枯れ木を採ったり伐木したり、馬を飼ったりしている者を、最初に合図の起こった場所へ、呼び寄せて加勢をさせることに、大体定まっているのであったが、重大な危険の場合には、それに一致した叩き方をして、次から次と今のように、丹生川平の郷へまで知らせて、そこから大勢の加勢の者を、呼び寄せることになっていた。
今や、大危険の警報が、四里に渡る森林の中を縫い入って、丹生川平の郷の方へ、素晴らしい速さで送られて行く。