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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

占われたる運命は?

「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」

こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに立っている旗本屋敷の、家根の甍が光って見えた。土塀を食み出して夕顔の花が、それこそ女の顔のように、白くぽっかりと浮いて見えるのが、凄艶の趣きを充分に添えた。

その夕顔の花の下に立って、そう美女が侍を呼びかけたのであった。

「わしの運命を買えというのか、面白いことを申す女だ」

青木昆陽の門下であって、三年あまり長崎へ行って、蘭人について蘭学を学んだ二十五歳の若侍の、宮川茅野雄は行きかかった足を、後へ返しながら女へ云った。

「買えと云うなら買ってもよいが、運命などというものはあるものかな?」

云い云い女をつくづくと見た。女は二十二三らしい。身長が高く肥えていて、面長の顔をしているようであった。どこか巫女めいたところがある。

「はいはい運命はございますとも。定まっているのでございますよ。あなた様にはあなた様の運命が。私には私の運命が」

「さようか、さようか、そうかもしれない。もっともわしは信じないが。