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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
「何となく俺には恐ろしい。碩寿翁様が相手だからな」
「と云ってうっちゃっては置かれないよ。……ここまで尾行て来た甲斐だってないよ」
「それにしてもどういうお考えから、碩寿翁様には飛騨などという、こんな山国へ来られたのだろう?」
「私達には関係はないよ。……襖をあけて覗いてごらんよ」
ここの部屋には燈火がなかった。
で、二人の男と女の、姿を見ることが出来なかった。
が、もし燈火があったならば、囁き合っている男と女が、夕暮時に柏屋の門へ、二挺の駕籠を並べてつけ、揃って奥へ通って行った、老人と若い美しい、女とであることが見て取れたであろう。
しかしそれにしても碩寿翁が、さっき方この部屋を覗いた時には、客がなかったはずである。
それだのに今は二人もいる。
これはどうしたことなのであろう?
思うに二人の男と女は、どこか別の部屋にいたのであったが、この時その部屋から忍び出て、この部屋へ潜入したのであろう。
と、この部屋へ一筋の、細い明るい光の縞が出来た。
男が襖をあけたので、隣りの部屋の行燈の火が、隙間から射して来たのであった。
「あッ」と、云う声が突然に起こった。