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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

浪江はそういう茅野雄を見ながら、体をこわばらして佇んでいたが、うっちゃっては置けないと思ったからであろう、石段を茅野雄の方へ走り上った。

「あまりに勿体のうございます!」

浪江は茅野雄の右の腕に縋った。

が、すぐに振りほどかれた。しかし浪江は一所懸命に、再度茅野雄の腕に縋った。が、またも振りほどかれた。

超人

しかしそういう夢中になっている、茅野雄の耳へ殺到して来る、大勢の足音や喚き声や、打ち物の烈しく触れ合う音が、聞こえてきたのは間もなくであった。

そうしてその次の瞬間には、宮川覚明と郷民達とが、石段の下まで襲って来たのを迎え、神殿を背後に神像の前に、抜き身を中段に構えた茅野雄が、その足もとに仆れている浪江の、気絶をしている体を置いて、決死の姿で突っ立っていた。

しかしその次の瞬間には、切りかかって来た郷民の二人を、石段の上へ切り仆した茅野雄の、物凄い姿が見受けられた。

全く物凄いと云わざるを得ない。

乱れた髪、返り血を浴びた衣裳、はだかった胸、むきだされた足、そうして構えている刀からは、鍔越しに血がしたたっている。が、そういう茅野雄の肩の、真上にあたる背後の方から、例の神像の一眼が、空から下りて来た星かのように、鋭い光を放っているのが、わけても凄く見えなされた。