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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
が多くの人の、さまざまの手を通したあげく、この飛騨の地で「あるべき所へ帰る」――そういうことを洞察して、そうしてこの地へ出て来たことも、神性のしからしむるところであった。
いやいやむしろこの飛騨の地で、従来散失していたものを、一所に集めようと心掛けて、その神性を働かせて、それに関係ある一切の人を、この地へ集めたと云った方が、中っているように思われる。
そういう超人の慶正卿であった。
その神々しい風采は狂信者の覚明や郷民達をさえ、恭謙の心へ導いてしまった。
で、にわかに洞窟の内は、静粛となり平和となった。
と、そういう洞窟の内を、一応見廻した慶正卿は、神殿の方へゆるゆると進んだ。
右手を前へ差し出している。その掌から鯖色の光が、矢のように鋭く、射し出ていたが、その光は神像の一眼の光と、全く同じものであった。
碩寿翁の持っていた小箱の中の物品! それと全く同じ物で、碩寿翁から慶正卿が、横取ったものに相違ない。
石段を上ると慶正卿は、敬虔に神像の前に立ち、右手を神像の方へ差し出したが、ややあって神像から立ち離れ、神殿の横手へ佇んだ。
片眼であった神像の眼が、二つながら今は明いている。