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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

で、ふしだらをなされたり、無駄使いなどをなされるのだ。……それにしてもこのようにお道具類が、眼に見えてなくなってしまっては、旦那様だとて不思議に思われて、何とか苦情を仰言られるだろう。……でも奥様なら大丈夫かもしれない。あのお美しいお顔で笑って、あのお上手な口前で喋舌って、丸めておしまいなさるだろう)

こう思うと京助は嬉しくなった。

(奥様はお偉い奥様はお偉い。それに旦那様は、疑がいながらも、奥様のお美しさには参っておられる)

で、京助は安心をして、今度は部屋の中を長閑そうに見た。

と、その京助の眼の前の襖が、向こう側の方からあけられて、さっき隣りの部屋へ入って行ったお菊が、手に小さな包物を持って、忍ぶようにこっちの部屋へ入って来たが、四辺に気でも配るように、オドツイた眼で部屋を見廻すと、京助の前にベタリと坐った。

「京助や」と云ったが嗄がれた声であった。

「これをね、急いで持って行っておくれ。ここにね」と云うと書面を出した。

「行き先の番地が書いてあるよ。で、すぐさま行っておくれ。途中で誰が何と云おうと、よしんば誰が止めようと、決してこれを渡したり、引っ返して来てはいけないよ。