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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
大岩が行く手にころがっていて、それを巡って向こうへ出たところ、大沼が湛えてあったりもした。
老樵夫に逢った地点から、少なくも二里は歩いたはずだが、一つの人家にも逢わなかった。
(変だな)と茅野雄は思案した。
(道が異ったのではあるまいかな? お城下へ通じている道である以上は、本街道と云わなければならない。本街道なら本街道らしく、たとえまれまれであろうとも、人家が立っていなければならない)
ところが人家は一軒もない。
(おかしいな、おかしい)
しかし老樵夫がああ教えた以上は、やはり高山のお城下へ通う、本街道であるものと認めて、辿って行くべきが至当のようであった。
で、茅野雄は歩いて行った。
人間の不安や心配などに、なんの「時」が関わろうとしよう。間もなく夜となり夜が更けた。星の姿さえ見えないほどに樹木が厚く繁っている。で、四辺が真の闇となり歩こうにも、歩くことが出来なくなった。
(いよいよ野宿ということになった。どうも仕方がない野宿をしよう)
狼の襲来というようなことも、弦四郎の襲来というようなことも、もちろん心にはかかったけれども、それよりも山道を歩いて行って、断崖などを踏みそこなって、深い谿などへころがり落ちて、死んでしまうかもしれないという、そういう不安の方が茅野雄にとっては、緊急の不安であったので、野宿を