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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

で、茅野雄はたしなめるように云った。

「拙者貴殿に対しては、いろいろ申し上げたいこともあり、お訊ねいたしたいこともあり、釈明いたしたいこともござる。が、まずそれはそれとして、ゆっくり後日に譲ってもよろしい。しかし後日に譲れないのは、現在の貴殿の悪行を、見過ごしにするということでござる。見れば臈たけた娘ごを、貴殿には誘拐なされようとしている。穢い所業、卑怯でござるぞ! 武士たる者のすべきことではござらぬ! 娘ごを放しておやりなされ! もしも悪行をつづけられるならば……」

ここで刀の柄頭を、茅野雄はトントンと右手で叩いたが、

「勿論拙者にはその娘ごの、身分も存ぜねば名も存ぜぬ。また娘ごと貴殿との間の、交渉も知らねば関係も知らぬ。が、偶然来合わせて、この眼で貴殿の悪行を――さようさよう打ち見たところ、貴殿には正義の武士でなく、この出来事は悪行らしゅう厶。――で、貴殿の悪行を、認めた以上は打ち捨ては置かれぬ。貴殿に制裁を加えた上で、その娘ごをお助けせねばならぬ」

ここでまた茅野雄は右の手でトントンと刀の柄頭を打った。

「娘ごを放しておやりなされ! 否と申さば太刀打ち申そう! いかがでござる! いかがでござる!」