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しょうがいのかきね

生涯の垣根

室生 犀星

「新潮」1953(昭和28)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,267 字 · 22 页

青空文庫

好きになるということは恐ろしいことに違いない、どこにもこの男に秀れたところなぞなく、怠け者で小汚ないが、受け答えの返事の声が、ずば抜けて早く大声で元気だった。何よりもらくにつき合える。どういう彼のまわりの人間よりも、らくに民さんとなら話される、こういうことがかねがね彼に必要であったし、その必要が民さんによって、申分なくみたされていたからだ。彼は民さんとのつきあいを男女の関係について考えてみたが、好きになるということは顔にある器量なんか、しまいにもんだいでなくなることも判ったし、好きということは毎日のすることがらが、だらしなく批評なしで解きあえることも、しだいにわかって来ていた、それに男女間には肉体のつながりがあるから、好きになったら堪ったものではない、きらいになるまで続くのであろう、好きときらいと、このふたつの言葉を抛り出してしまえば、そのほかの言葉は人間の世界ではいらないことになる、民さんが女なら彼はもっと好きになっていたのであろう、全くどこがどうということもないのに、何でも聞いてやるようになるものだ。

彼ははじめ篠竹ばかりを庭のまわりに植えたが、三年経ってから篠竹の庭を壊しはじめた。