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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
明かに誰かがそれを途中でかもしくは店から持ち出して瞞着したに相違なかった。代金約三百円余は店として大したことではなかったが、事件は不問に附すべきものではなかった。
田原さんは主任店員の広田を店の二階の自分の室へ呼んだ。
「僕は何も君を責めるわけではない。分ったかね、君を責めるわけではない。然し君も主任店員として一半の責は負わなければならない。で秘密に調査をしてくれないかね。僕よりも君の方が店の内情に通じていると思うから君に頼むんだが……。」
広田は黙って考えていた。
「どうだろう?」と田原さんはまた云った。
「然し店の者にむやみに疑をかけるわけにもゆきませんし……。」
広田は当惑そうであった。
「そうだ、他人に疑をかけるのは悪いことだ。だから秘密にそれとなく調べてくれ給え。」
それから田原さんは会計の原口を呼んで、暫く事件を秘密にするように頼んだ。物品の不足を知っているのは田原さんと広田と原口とだけだった。
それから一週間たった。然し犯人に就いては何の手掛りもなかった。
或時原口は田原さんの方へ伺った。そしてこんなことを云った。
「余りに人を信用されるといけませんです。