轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

「誰も来なかったか。」

「いえどなたもお見えになりません。」

田原さんはその答えをきいて、軽く頭を横に傾げた。それから冷たい水で顔を洗うために勝手許へ行った。

水で顔を洗い、それから頭まで洗ってみると、田原さんは先刻の感情がいつしか消え失せて、頭の中が妙にぼんやりしているのを感じた。然しそれはまだいくらかよかった。

先刻の感情と云うのは、彼が昼寝から覚める時に覚えた感情である。

何か淋しい引入れられるようなものが彼の心にふうわりと被さって来た。それは単なる情緒ではなかった。淋しい佗びしいそして頼り無いようなものが、彼の心の上に煙のようにふうわりと投げかけられたのである。で彼は本能的にそれを脱しようとして眼を開いた。然し彼はまだその時まで半ば眠っていたのである。そして彼が脱しようとしたその寂寥たる或物が、また引き入れるようにして彼の眼瞼を閉じさした。彼は全身微睡みながら、覚めかかった心をじっと、その或物へ集中した。じっとしているに堪えられないような、それでもじっとしていなければならないような、荒凉たる感じが彼のうちにその時湧いて来た。それは、空虚な柔い擽ったいような苦悩であった。