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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
『それは弱った。そちの食養が乏しいためか、生れる子は、清も孝も、みな病弱だ。この上に、弱い子を生んで、風波の世へ送り出すのも罪、世のためにも、家のためにもならぬ。不愍だが、鼠屋の黄王散を買って、そっと、飲んでくれい』
闇から闇へ――というのである。ます女は、夜更けてから、悄々と出て行った。
『買って来たか』
『いえ……。やめました』
彼女は、良人の顔いろを見ながら、こういった。
『実は、この子を妊娠る前に、私は、白い碁石をのむ夢を見たのでございます。所が、今、鼠屋の前まで行って、戸をたたいて薬を買おうと思うと、足許に、何か白いものが光っております。オヤ、と思って拾ってみると、不思議ではございませんか、これこの通り、夢に見た碁石が……』
と、帯の間から、一粒の白石を、出してみせた。
奇瑞だ、奇蹟だ、とこの話は伝記の書に伝えられている。偉人高僧の誕生伝記と同巧異曲なものである。草雲自身も、それに感動して、晩年の書斎を白石山房とよんだし、印章にも、瑞白、白石子、石生などと刻していた位だし、又、彼自身が老後人にも、
『あの時もし、母が、一服の黄王散を飲んだら……』