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たざきそううんとそのこ

田崎草雲とその子

吉川 英治

「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页

青空文庫

五人兄弟辻斬りを辻斬る 釣竿魚を釣らず金を釣る

おきまりの押籠から勘当、とど、面倒くせいやって理で、諸国をふらついていたのが、七、八年目にぶらりとやって来て、あっしに見せたのが、諸国の人情風俗を、おどけに書いた稿本なんで。それから、膝栗毛は生れたんでげす。次にゃ、木曾道中を書きやすから、版木になりましたら又御覧なすッて』

と、そんな、話だった。

この江戸ッ子は、正直だが、やっぱり臭い。酢豆腐の部類に属するものだ。それに、おどけを語って、涙を解さない滑稽作者は、話せないと思って、梅渓は帰った。

五人兄弟辻斬りを辻斬る

釣竿魚を釣らず金を釣る

『居るか。梅渓』

飢えている日も、訪れる声は、元気者ばかりだ。

妻のお菊の兄弟たちである。松井の四人兄弟というと、音に聞えている。長兄弥左衛門、次が益太郎、それから利兵衛、文蔵という順だ。どれもこれも、侍伝法、大男で酒のみである。上の弥左と末の文蔵だけが、あまり飲けない。そのかわりに喧嘩がすきだ。

妹の貧乏などは、眼の中には入らない。入りかわり、立ち代りだから堪らない。むろん遊びに誘う、千住、吉原、品川、足をふまない所はないが、お菊は、嫌な顔を見せたことがなかった。