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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
『天に日輪あれど、当藩は、昼間でも暗うござる』
『おお暗い、暗い』
と、藩邸の門を、堂々と通って、脱藩を声明してしまった。
白張提灯の示威が、隊伍をくんで、家老のやしきへ行き、川上に、詰腹を切らせて、江戸へ行くらしいという噂をきいて、草雲は飛んで行った。
ともすると、その草雲にさえ、斬ってかかりそうな眼をしている十一名を前に並べて、彼は、醇々と説きだした。彼の王室を思うの熱情と、大義を説く懸河の弁は、画家早雲ではなかった。志士田崎恒太郎だ。
『おれに任せろ、田崎も武士だ』
ひとまず、抑えておいて、彼は江戸へ急いだ。佐幕にかたまっている江戸詰の藩邸へゆくのは、自身を死地へ投げるも同じである。彼は、むろん、死を賭して臨んでいる。
ここには、藩でも、手強いのが、相応にいた。死か、説伏するか。二つだ。
藩邸の評定の間に、殺気にみちた眼が集った。刀と人間とが、厚ぼったく居流れた。草雲は、一方に、坐った。
しずかな語気が、だんだんに、熱を帯びてゆく。――彼が、大義をさけび、時勢を説明し、また、この時代の岐路に立つ戸田藩の正しき方向を、耳朶を赤くして説きだすと、江戸詰の藩士たちは、果して、大浪を打って動揺した。