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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页
藩からは一人あて、一日米一升の兵糧割り当が下るだけだった。弾も、刀も、草鞋までが、自弁だ。それでも、すすんで集る者が多く、兵気は、熾んなものだった。
戊申。――もしこの民兵赤誠隊の組織がなかったら、梁田市街戦の前に、幕軍の歩兵がなだれこんで、足利は、戦禍を浴びている、足利は、今日のすがたがなかったはずである。
一方、江戸は、上野に火があがった。
業火の海に、惨鼻な血が、五月雨ほど流された。上野は、黒焦げになり、彰義隊は、無残な壊滅に終った。
格太郎は、気ぶりも、父にそれを見せなかったが、塾を中心とする学友たちと、とくから、佐幕派にひき込まれていた。――血と、雨と、泥と、官軍の撃つ弾とを浴びて、みじめに、上野から崩れ落ちてゆく、敗兵の中に、若い彼が見出された。
塾の盟友、松浦武四郎、岸田吟香、栗田万次郎など、同士、七人といっしょに、落ちて行ったが、途中で、みんな、散々になってしまった。
彼は、母の菊女の菩提寺へ逃げた。今戸の称福寺である。暗い蜘蛛の巣の中に、息をころして、七日あまり、干飯をかんで、潜伏していた。
母は、この寺の土に眠っているのだ。父は――妻は――子は――格太郎はやがて何処ともなく姿を消した。