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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

そして兄のこの一言のために、不思議にも今まで自分に附き纒うていた厭わしい影が一時に跡もなく消えて行ったように思われた。……永遠に。何だか笑い出したくなって来た。じーっとそれを口の中で堪えていても、次第に、それはどうしても堪えきれなくなって来た。彼女はとうとう真赤になってふき出してしまった。

六

郵便の配達は、日に二回ずつしかなかった。午前の十時頃と、午後の三時頃と、この時刻になると、彼はいつもうろうろと玄関のあたりを行ったり来たりして少しも落ち着いてはいられなかった。それは、傍の人達の目にもそれと気がつくほどであった。配達夫が門の中へ入って来ると、きまって彼がそれを受取りに出た。そのくせ、その中に自分の分があってもすぐにそこで開いて見るような事は決してせず、その場は妙に済まし切った顔附をして一まず自分のふところの中へ納めてしまうのである。そして、どうかするとそのまま自分の部屋へ引込んで、そこから長い間出て来なかったりする事があった。

この事を、彼の母はひどく気にした。息子に何か自分達の知らない秘密でもあって、そしてそれは自分達には打明けられないような種類の事で、それがために一人で思い悩んでいるのに相違ないと思うた。