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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

こういう種類のものは彼女自身にはちょっと珍らしく、またちょっと異様にも感じられたので、裏を反えして読むともなく二三行目を通してみた。と、急に彼女は、何か怖い物をでも見たように、はっと驚いて目を他に転じた。が、次ぎの瞬間に、今度は非常に熱心に、一字一字丁寧に読んで行った。それには次のような意味の事が書かれてあった。「いつもながら、不得要領なお返事ばかりで当方の迷惑は一通りではない。こちらを発つ時にはあれほど堅い約束をして置きながら何と云うことだ。もし一両日が間に御送金なくばもはやあなたとは談しはしない。例の証文の件を親御の方へ照会して処決して貰うようにするから。左様承知ありたい。草々頓首。」多分に憤りの調子を含んだ条文で細かく書き続けられてあった。

房子は三度目に読み返して行った時に、もう堪えられないような気がして来た。何ぼ何だって、これは何という乱暴な物の書き方だ! と思った。誰かが彼女自身の面前で、彼女自身を厳しく責めつけ、辱かしめているように感じた。胸の動悸がおのずから高まって来た。顔色が蒼く変り、手がふるえて来た。やがて両方の目へ涙さえ浮んで来るのであった。