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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

……

「俺は、もう何にも云うまい。」こう、庸介は心に深くきめた。

「俺が、彼等に何をしてやる事ができるのだ、彼等は俺に何も望んでいるのではない。そしてまた、自分から云ってみても、彼等をみだりに乱したりする必要が何であろう。……飛ぶ鳥をして飛ぶ鳥の歌を唄わしめるがいい、野の草をして野の花を咲かしめるがいいのだ。何者がそれを妨げたり、それに手入を加えたりする事がいろう。……俺が今、どのような思想を持ち、どのような人生観を抱いていたからと云って、それはみんな俺一人のことだ。むろん、俺はそれを何者からも自由にさして置いて貰いたい。その代り、俺もまた、俺の思想、人生観のために他人をとやこうしようとはしまい。通じ合い、融け合うものなら、おのずからにして通じ、おのずからにして融け合うであろう。我々はそれを待つほかないのだ。そうだ。自分が偉大になり、自分が成就するのゆえをもって他を騒がし、他をそこねたくはないものだ。――例えば善悪のような場合にしても、悪を滅さなければ善がなり立たないように考えるのは誤ではあるまいか。善の生長、善の存立のために強ちに悪を圧し、悪と戦わねばならぬような善なら、そんな善なら俺は賛成できない。