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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
田の中で鎌の刃を白くきらきらと光らしている人、刈り取られた稲を乾すために畔の並木に懸けている人、それを運ぶ人――年寄も、若者も、女も子供もみんな一生懸命になって、まるで駈け歩くようにして働いている。一方には大豆、黍などが収穫されつつあった。畑の中に長々と両足を投げ出して一休みしている人々もあった。太い煙管ですぱすぱ烟をふいている人などもあった。そうかと思うと、二町ほども距った所から、まるで風のような荒い声で、何か面白そうにその老爺に話しかけている者などもあった。空には赤とんぼの群がちらちら飛んでいた。農夫等の仕事は、彼にはいかにも楽しそうに見られた。そこには適度の暖かさを持った日光と、爽やかな清新な外気とがある。健康な肉体がその中で、その右、左、前、後へと、いとも安々と動いている。いかにも滑らかに。何の滞りもなく。――それは決して労働と呼ぶ事ができないように思われた。と云うよりは、むしろそれは慰みであり、一種の遊び事ででもあるかのようにさえ見做されたのである。
何事に煩わされるという事もないだろう。むろんこの瞬間に何を憤り誰を怨み、また誰から怨まれるという事があり得よう。