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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
房子は、その中から一つを手に取って、
「家の畑でできたのよ。」と云った。それは「妾の栽培している樹に生ったのよ。」と云う意味を十分匂わせたつもりだったが、他の事に思い耽っていた庸介にはそれが少しも通じなかった。
沈黙があった。四囲の樹々の葉蔭を通して涼しい風がそこへ流れ込んでいた。房子はたちまち退屈を感じて来た。庸介はすぐとそれに気がついたので、
「さあ、話しておくれ。ね、房子。家の事を、お前の事を、すっかり。」と、まるで妹の機嫌でもとるように口を開いた。
そこで房子は話し出した。
今年の春、庸介のすぐ下の妹の政子(此所から七里ほど離れた村の、ある豪家へ縁付いている)が一度訪ねて来た事、その長女が今年四つで、まあ、それは可愛らしい児である事、それが房子を「おばちゃん! おばちゃん!」と云って、どんなに仲よく自分と遊んだかという事。それから去年の夏、裏の畑の中へ灌水用の井戸を掘ったところが、そこから多量に瓦斯が出だして、あまりたくさんに出るままにタンクを据えつけて、今でもそれで台所の煮焼から風呂場まで使ってそれでもまだ余るほどであるという事や、つい先達、家の前を流れている△△川が近年にない大洪水になって、ちょうどこの村の向岸が破堤して、凄まじい響を立てて轟々と落ち込む水の音が、三日三晩も続いて、それがどんなに