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ゆふいんこう

由布院行

中谷 宇吉郎

「社会及国家」1926(大正15)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,779 字 · 14 页

青空文庫

それで伯父が大分物の分った人だと感心した次第なのである。実際のところ、この浴室は仲々いい。屋根は茅葺で天井も張ってないものであるし、浴槽というのはただの木張りに過ぎないのであるが、温泉に浸りながら山を見るように注意してあったり、浴槽の底に細い砂利を敷いてそれを度々よく洗って、いつでもフレッシュな砂利の感じを足裏に与えるように気を配ったりしてあるところが、如何にも伯父らしい。それに温泉が非常に透明で、また豊富なために始終出流しになっているので、いつ行って見ても、底の細い黒い砂利がゆらいで見えているのである。

ただ一人でこの温泉に浸りながら、伯父が昔、座敷の床の天井の見えない所に上等の板を使って得意になっていたのを思い出した。伯父の趣味も、あの頃から見ると随分進んでいると思って見ることも愉快であった。

高い所なので、冬は殆ど雪に埋れて暮すのだそうである。冬の仕事に沢山白檀の木を買ってあった。この附近に、平家の落武者の墓があったといわれている一叢の林があったので、伯父が見に行って見たら、それが全部白檀の林だったのだそうである。今ではこのような九州の山奥でも、白檀のそのような大きい樹は殆んどなくなっているので、伯父は大変喜んで、それをみんな買ったのだそうである。