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おとこぎらい

男ぎらい

豊島 与志雄

「苦楽」1949(昭和24)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,878 字 · 18 页

青空文庫

姐さんも出て来たので、私は奥に引っこんでいました。顔を洗い手を洗いました。男くさくって、むかむかしました。中尾さんはもうお爺さんですが、それでもなんだかいやです。少しく猪首で、肉の厚ぼったいその頸筋が、陽やけしてざらざらしてるくせに、へんに脂っこい感じです。

しばらくして、若い男たちは帰ってゆきましたが、中尾さんと井上さんは居残って、特別のウイスキーをビールにわって、飲みました。ひそひそと話しあったり、ふいに高笑いをしたりします。密談のしめくくりをしてるのでしょうか。それとも、猥談でもはじめてるのでしょうか。姐さんまで一緒になって笑っています。もうつくづく厭になりました。

そのあと、中尾さんが帰ってゆき、お島さんもちょっと片付けものをし、店をしめて帰ってゆきました時、二階への梯子段の上り口のところで、井上さんは突然、よろけるような風をして、私の背にもたれかかりました。ほんとによろけたのではありません。背中に押っ被さるようにして、両手を肩から胸へまわし、抱きしめてしまいました。熱い息が、頬から襟元へかかります。私は呼吸もとまる思いで、立っておられず、へたへたとくずおれて、そこの板敷につっ伏してしまいました。