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いきょう
異郷
寺田 寅彦
「明星 第二巻第六号」1922(大正11)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,712 字 · 8 页
その馬のからだ一面から真白な蒸気が仰山に立ち昇っていた。並んで坐っていた連れの男は「コロッサアル、コロッサアル」と呟いていた。私は何となしに笑いたくなって声を出して笑った。連れの男は何遍となく「コロッサアル」を繰返しては湯気の立つ馬をまじまじ眺めていた。
ウワルプルギスナハトには思ったような凄味はなかった。しかし思わない凄味がどこかにあった。お化けは居ないがヘクセンやエルフェンは居そうな気がした。ドクトル、ベエアマンはここで花崗岩の破れ目の出来方について講釈をして聞かせた。
あらかた葉をふるったぶなの森の中を霧にしめった落葉を踏みしめて歩いた。からだの弱そうなフロイラインWは重いリュクサックの紐に両手をかけて俯向きがちに私の前を歩いていた。ブルガリヤから来ているチンネフ君は、いろいろ日本の事を聞きたがって私と並んで足を揃えて歩いた。聞かれてみると私は日本の事を何にも知らないのであった。……
日暮れにツウム・ワイセン・ヒルシュという宿屋についた。食後にみんなが学生の唱歌を歌った。アフリカに行っていたドクトルMはズアヘリ土人の歌というものを歌って聞かせたが、それがどれだけ本当のものに似ているかそれは誰にも分らなかった。