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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

龍子はこんなふうに切り出した。そして、真っ赤に面を火照らせて、お茶の支度にうろうろしている寿女のほうへ、笑窪の顔をみせて言った。

「ねえ、お寿女さん、あたくしたち姉妹なんですもの、これからは、せいせい、あたくし、お役に立ちますわ」

嫂は、兄と目顔で相談しあっていたが、一応、親戚共に計ってからということに話をはこんだ。

龍子は、お稽古のひとたちを待たせてあるからと早々に帰って行った。

嫂は稀らしく燥ゃいで、寿女の肩をはたいて、

「寿女さんは果報者ねえ。あんなえらい方に目をかけて頂けるなんて」

そして、真っ赤になってうろうろしている寿女の顔を、とんきょな眼つきで覗き込んだりした。

翌日、寿女は嫂に附き添われて、青山の奥住の家へ行くことになった。加福の師匠から貰った檜の小枠だけは、自分で抱えて行った。

わたくしの手元にある最近の婦人録に、声楽家奥住龍子女史の略伝がこんなふうにのっている。

ソプラノ、明治音楽学園講師、昭英音楽学校講師、若艸会主宰。日本音楽学院本科声楽部卒業。一九三二年独逸留学、三四年帰朝、目下ステージを去って教授に専心。「南独紀行」「私の観た独逸楽壇」