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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

「せんせいこの頃少し逆上せていたようだから、変になったんじゃないかな」

茶の間に戻ってきて、中尾は立ったまま餅菓子をつまみ食いしながら言った。

中尾に引き添うて喋りつづけていた龍子は、それで、ぎくっとした顔になったが、うろたえて、

「厭がらせを仰言らないでよ。ねえ、中尾さん、お願いよ、早くどうかして頂戴」

と、せがんだ。

中尾が探してみることになった。

その夜、遅くなって、中尾から電話がかかってきた。寿女の居所が分ったと言う。施療院で危篤状態だということであった。

翌朝、早く、中尾がやってきた。

「どうも、酷い目にあった。とうとうお通夜をさせられちゃってね。……そうそう、あんたの名前を二度も呼んだっけが。矢っ張り恩を感じていたんだね。可哀相に……。僕が駈けつけた時は、もう、訳の分らない譫言ばかり言ってたんだからね。肺炎だそうだ。だが、よく、あそこまで持ちこたえたもんだ。医者も感心してたがね」

「なんだって施療院なんかで……」

と、龍子は独り言にいった。

「警察から廻わしたんだが、なんでも、錦糸堀の車庫の辺で行き倒れになっていたそうだ。尾久へでも行くつもりだったろうが。