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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

いや、尾久とは方角違いだしなあ。此処を出たのが五日で、七日の朝に病院へ運んだっていうんだから、まあ、まる二日外にうろうろしていたわけなんだなあ」

中尾は自分で茶を淹れて、熱いのをふうふう吹きながら上眼で龍子を見て言った。

「どうです、先生、出かけますか? まだ、死亡室に置いてありますがね」

龍子は不興気に頭を振った。

「これから、また、ひとっ走りして、運び出しに立会わなけあ」

窓硝子ごしに覗いて見て、「よく、降りやがる」

そして、濡れたレインコートをまたひっかけた。

「そうそう、妙な爺さんがいたっけが、あれあ尾久の家の人かい。こっちで、もの言っても黙りこくってるし、居眠りしてるかと思って覗くと、目玉をぎょろりと開けてるしさ、危く声出すとこだったよ。なんしろ、夜っぴて、爺さんと二人っきりでさ、火もないとこに無言の行だったからなあ」

ゴム靴の釦をはめている中尾の背へ、龍子は気弱く、

「恩に着るわよ」と声をかけた。

その夜、中尾がまた立寄った。

「万事済みましたよ、先生、尾久の兄さんという人がきて引き取って行きましたがね。……どうも、あのお寿女さんて妙な娘だったなあ。