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ちじんのふくしゅう

痴人の復讐

小酒井 不木

「新青年」1925(大正14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,482 字 · 13 页

青空文庫

やがてS教諭は患者の頭部の後ろに立って手術刀を握りました、いつも手術中には、私に向って必ず、例の独逸語の罵言を浴せかけますが、その日は、私がクロヽフォルムの方に気を取られて居て、余計に愚図々々しましたので、一層はげしく罵りました。罵り乍らも教諭は鮮かに眼球を剔出して、手早く手術を終って去りました。くり抜かれて、ガーゼの上に置かれた眼は健眼と変りなく何となく私を睨んで居るようでしたから、一瞬間ぎょッと致しました。で、私はピンセットにはさみ、いち早く看護婦の差出した、固定液入りの瓶にポンと投じて持ち去らせ、それから繃帯にとりかゝりました。通常一眼を剔出しても、健眼に対する刺戟を避けるために、両眼を繃帯し、二日後にはじめて健眼をさらけ出すことになって居りますので、私は、患者の眼の前から後頭部にかけ房々とした黒髪を包んで、ぐる/\繃帯を致しました。それが済むと、まだ麻酔から覚めぬ患者を病室へ運び去らせて跡片附を致しましたが、私は予期した結果の起らなかったことに、非常な失望を感じました。諸君は私の計画がやっぱり痴人の計画に終ったと思われるでしょうが、その時私はまだ/\一縷の望を持って居たのです。