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しろすみれとしいのき
白すみれとしいの木
小川 未明
「読売新聞」1920(大正9)年1月9~10日、12日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,429 字 · 5 页
彼は、駆けて、駆けて、駆けぬきました。そして疲れると、体から汗が出て、これほどの寒さもそんなに寒いとは思いませんでした。彼は、ところどころ休みました。そして行く手にそびえて見える高い山を仰ぎました。月の光が、かすかにその山を浮き出しているのでした。
弟は、ほとんど自分でも、どうしてこうよく走れるかわからないほど走りました。そして、どこをどう走ってきたかわかりませんでした。夜明けごろでありました。赤い火の球が自分の前になって、雪の上をころころと転げていきました。
彼は、これはなんだろうと思いました。きっと魔物にちがいない。けれどもう自分の命を惜しいと思いませんから、それをつかまえようといっしょうけんめいに跡を追いました。すると火の球は、ころころと谷底に転がり落ちました。
彼も、火の球について谷へ下りようとしますと、もはや夜が明けていました。そして、そこは路もないまったく山中で、あのきばのように高い山は、まだ遠くなって見えたのであります。
どうしたらいいかと思って、まごまごしていますと、その中に日の光がさしてきました。雪はしだいに軟らかくなって、弟は、もう一歩も身動きすることができなくなりました。