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しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
「みずゑ」1910(明治43)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页
ラスキンの伝記も見た。トルストイの「ホワット・イズ・アート」も読んだ。昼前に若い一人の男が来て、兎を一羽買ってくれという。副食物の単調に閉口しているおりだから早速三十銭で求める。いろいろ近所の山の話をして男は帰った。
昼には兎を煮てきてくれた。おかみさんは鍋を火鉢にかけながら、兎の価が高いというてうるさいほど口小言をいう、こちらはそんなことはかまわない。塩引鱒や筋の多い牛の「やまと煮」よりは、この方が結構である。
退屈紛れに幾度も湯に入る。浴槽の天井には一坪ほどの窓があって、明放しだから、湯の中に雨が降り込む、入口も明け放しで、渓の紅葉の濡色が美しい。湯に全身を浸している時は馬鹿に心持はよいが、出ると寒くってゾーっとする、も少し熱かったらと残念に思われる。
雨の日や夜分は、便所の通いもいささか厄介である。母屋を離れて細い崖の上を二十間もゆくので、それもあまり綺麗ではない。時としては下駄のないこともある。あっても濡れていて無気味なこともある、夜は往々ただ一つの燈火が消えていて、谷へ落ちはしまいかとおそるおそる足を運ばなければならない。
九