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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

遥かの谷底から一樽の水も汲んで来てくれた。

小屋は屋根を板で葺いて、その上に木を横たえてある。周囲は薄や粟からで囲ってある。中は入口近くに三尺四方ほどの囲炉裡があって、古莚を敷いたところは曲の手の一畳半ほどもない。奥の方には岩を穿って棚を作り、鍋やら茶碗やら、小さな手ランプなどの道具が少しばかり置かれてある。部屋の隅には脂に汚れた蒲団が置いてある。老人はやや醜からぬ茣蓙を一枚敷いてくれた。私は草鞋を解いて初めて快よく足を伸した。

日のくれぐれに一袋の米と味噌を背負って宗忠は帰って来た。ここは狭いから老人は下の小屋へ泊るというて、何やら入った袋をさげて下りてゆく。宗忠は鍋の中で米を磨ぐ、火にかける、飯が出来たらそれを深い水桶にあけて、その跡へは味噌をとき、皮もむかぬ馬鈴薯を入れて味噌汁をつくる。私の好奇心は、宗忠の為事に少からぬ興味を覚えた。

戸外に足音がする、明けて見ると、闇の中を宗忠の兄の宗平が帰って来た。六万平近く山仕事をしていたが、夕方に出た雲が気になるので帰って来たのだという。雲とは何、せっかく山中に泊って雨では困るが、これも詮方がない。