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はくじつむ
白日夢
豊島 与志雄
「新小説」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 页
その上、何となく気にかかってきた。姿の見えない人間が、家の門を出たりはいったりしてるということは、それが荒唐無稽であるだけに一層気味悪いように思い做された。
「では兎に角よく注意しといてごらん、本当だとすれば冗談じゃ済まされないことだから。」
そして私は、門の戸を調べてみたり、あたりを見廻ったりした。何処にも異状はなかった。
曖昧なうちに四五日は過ぎた。すると妻は馬鹿馬鹿しい報告を齎した。
「うちの門が開くと思ったのは、どうもお隣りの門が開く音だったらしいんですよ。」
余り他愛ない話なので、私は妻に小言を云う気にもなれなかった。今迄どうして気付かなかったろうかと怪しまれるほど、それは如何にもありそうなことだった。門から玄関まで、庭の竹垣と路次の板塀との間の切石を敷いた道がわりに長かった。そして隣りの家と自分の家との、同じ造りで同じ鈴のついている門の音が、誤って聞き取られるのは、風向の加減で、或は風がなくとも耳の調子で、至極無理からぬことだった。私は表に出てみて、箱を二つに仕切ったような二軒長屋を、不思議そうに眺めやった。
そして実際不思議だった。同じ向きで同じ古さで、同じ広さ、同じ恰好、恐らく同じ間取り、二軒続いた板塀からは、どちらも玄関寄りに松が一本と、それよりやや低い檜葉が一本、似寄った枝ぶりを覗かして