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はくじつむ
白日夢
豊島 与志雄
「新小説」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 页
表札を取り換えて、両方互に入れ代っても、或は何もかもそのままにして、私達が彼等になり、彼等が私達になっても、聊か不都合でも不自然でもなく、お互の生活が今の通りに落付いてゆくかも知れない。
そして晩なんか、食後のぼんやりした頭で、夕刊を読み終えた眼を薄暗い庭の方へやったり、明日の天気模様を見るため狭い空を仰いだりして、少し冷々する縁側に立っていると、隣家の主人もその時、恐らく同じことをしているかも知れない、などと想像をめぐらしてみた。ふと振向いて、子供の布団を取出した押入の唐紙が、そのまま開き忘れられてるのを見ると、押入の中の薄い壁に穴をあけて「有村さん、」と呼んでみたらどんなものだろうか、などと想像してみた。
「おい、」と私は妻に呼びかけた、「隣りとの間の壁を取払ってしまって、一緒に暮したら面白いかも知れないね。」
妻は軽蔑したような薄ら笑いを洩らしたが、暫くして何と思ったか、こんなことを云い出した。
「そりゃ面白いかも知れませんわ。お隣りの奥さんは私より綺麗だから。」
「そして隣りの御主人は、僕よりも綺麗だろうからね。」
「それごらんなさい。損するのは私達ばかりですよ。