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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
そして桃代が、非常な重さでのしかかってくる。その太い眉、赤い唇、ぶ厚い耳朶、ちょっと毛の乱れてる襟足、そして何よりも、近視らしいくるっとした眼が、それぞれ別々に私の眼の前に廻転する。そしてそれらが一つ所に中心を求めて静まり返ると、彼女はもうそこに投げ出されてる一塊の肉体に過ぎなかった。
その肉体は、ただ柔かく温かくぼってりとして、そして行儀がよいのだ。意志も感情もないもののように、私の前に惜しみなく自分を投げ出している。――その夜から、私は幾度その肉体に取り縋ったことか。強い快楽もなかったが、倦きることもなかった。
桃代はその土地では、顔の売れた姐さん株で、気儘にひらのお座敷だけを勤めていた。私との仲は他へは内緒なのだ。だが加津美では公然のことで、喜美子の前でも遠慮はなかった。喜美子は私達の間を当然とでも思ってるらしく、或は寧ろ喜んでさえいるらしく、にこにこと楽しそうに私達二人を見る。私としては、失恋ではないが、失恋に似た感じだ。喜美子はもう手の届かないところにいるようでもあるし、すぐ掌の中にいるようでもある。なんだか焦れったいのだ。だから、焼け跡の野原に連れだして、夕日を眺めながら、彼女を相手に独語もするのだ。