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しらふじ
白藤
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,822 字 · 16 页
保治は知らず識らず、藤の木のことを何度か繰り返し尋ねました。妹は怪訝そうに眉根を寄せました。
「藤の木って、いったいどんなんだったの、わたしちっとも気がつかなかったわ。」
美代子が藤の花のことをなにか言いはしなかったかと、保治はまた繰り返し尋ねました。
「そんなこと、一度も聞いたことがないわ。おかしいわね、兄さん、藤の木ばかり気にして……。」
妹からじっと顔を見られると、保治はその顔をそらしました。胸の奥が涙ぐましいような心地でした。
「焼け跡に行ってみたら、分るでしょう。ねえ、いっしょにいらっしゃらない。」
そう促がされて、保治も漸く行ってみる気になりました。然し、妹と一緒でなく、一人で行くことにしました。
細川の人々は、厚木の近くに移転していましたし、そちらへは、保治も帰還後すぐに訪れていました。焼け跡はまだそのままになっている筈でありました。
薄い断雲が空を流れてる暖い日でした。保治はとりとめもない瞑想に耽ってる気持ちで、而もなにか新たなものに立ち向う心構えで、目黒駅からゆっくり足を運びました。
広い焼け跡のなかに、細川の家の跡は、度々来馴れた場所のこととて、すぐに見当がつきました。