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ひゃっかえん
百花園
宮本 百合子
「婦人画報」1926(大正15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,718 字 · 4 页
紫苑が咲き乱れている。
小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百花園の床几。
大東屋の彼方の端で、一日がかりで来ているらしい前掛に羽織姿の男が七八人噪いでいる。
「おや、しゃれたものを描くんだね、三十一文字かい」
楽焼の絵筆を手に持ったままわざわざ立って来、床几にあがって皿にかがみこんでいる仲間をのぞき込んだ。
「何だって――初秋や、名も文月の? なあんこった! だから俺は源公なんか連れて来るなあ厭だって云ったんだよ、始めっから」
別な声が、わざと分別くさそうに云う。
「憤んなさんなよ。まだお前にゃあ、この味は分らないとさ」
「ハッハッ、ひとの皿ばかり覗いてないで、自分の前を片づけろよ、いいかげんに」
「なあんだ、一枚も描いてないのか、こんなに慾張りゃがって。いい気なもんだね」
一寸森とした。誰かが低い声で、問題になった
※(歌記号、1-3-28)初秋や名も文月の恋の謎
と口誦んだ。
さっきから、あっちの小高い亭にも、鳥打帽をかぶった若者が頻りに楽焼の下絵を描いている。