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ひゃっかえん

百花園

宮本 百合子

「婦人画報」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,718 字 · 4 页

青空文庫

「どっちへ行こうかね」

「――どちらでも……」

女、描いた眉と眼元のパッと、秋草より遙に強く人間を意識した表情で大東屋の方を眺め佇んだ。

「そっちへ廻ろうか、じゃあ」

人影ないそっちの小径には、葉茂みの片側だけ午後の斜光に照し出された蜀葵の紅い花がある。男の一人、歩きつつ莨に火をつけた。

鳥打帽の若者は、まだ下絵を描いている。写生の日傘も動かない。ほんの少し風が渡り、夥しい草の葉が、軟い音、細い音、いろいろに鳴った。

急に、広庭つづきの叢のかげが賑かになった。多勢人の来る気勢。

「――本当に、さぞまあ百花園さんも喜んでおりますでしょうよ」

浮々した年増の声が、がやがや云う男の間に際立って響いた。丸髷のその女を先頭にフロック・コート、紋付袴の一団が現われた。真中に、つい先年首相であった老政治家が囲まれている。皆、酒気を帯び、上機嫌だ。主賓、いかにも程々に取巻かせて置くという態度。一寸離れて、空色裾模様の褄をとった芸者、二三人ずつかたまって伴をする。――芝居の園遊会じみた場面を作って通り過た。

写真をとるという時、前列に踞んだ芸者が、裾を泥にしまいと気にして、度々居ずまいをなおした。