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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
――みんなはおれを忘れているのかもしれない。
又四郎はこう思った。母もそこが心配だったとみえ、もっと親類や権威筋へ顔出しするようにといった。彼は母の忠言を尤もであると頷いて、それぞれ思わしい方面へできるだけ顔出しをするように努めたのであるが、総合したところは松家おかね嬢を知ったのが、収穫といえば唯一の収穫でしかなかった。
「あらちょっと、ちょっとお待ちになって」
この話のときにはみつ枝はやや色をなした。それは一般に若い妻が良人のポケットから女名前の手紙を発見したときの挙動に似ていた。
「そのまちかねえという方、なんですの、女の方なのでしょ、どんな方、もちろん若い方でしょ、おきれいにちがいありませんわね、御親類とか従兄妹とか、貴方とどんな関係がおありですの」
「それはです、まちかねえではないのです、正確には松家おかねというのですが、この人については、うう、また次に話すとしましょう」
ともかく、各方面へ顔を出してみた結果、人々が彼を忘れているのではなく、彼が「百足ちがい」であるために、誰も責任を負って推薦する勇気がない、ということがわかった。
――彼はまにあわない、用が足りない。