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かんごくべや

監獄部屋

羽志 主水

「新青年」1926(大正15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,909 字 · 12 页

青空文庫

腕力、脅威が道徳で、隠忍、狡滑が法律である。殺人、傷害、凌辱、洞喝が尋常茶飯事で、何の理由も無く平気で行われ、平気で始末される、淫売窟に性道徳が発達しない如く、斯る殺人公認の世界には探偵小説が生じ得ない。

(三)

山田という男は、早稲田に居る内、過激思想にかぶれ、矯激な行動をやったので半途で抛り出された上、女の事から自棄になって、死ぬ積りで飛込んで来た丈に中々負けては居ないが、力づくでは何ともならぬ。思想の宣伝で行っ付けてやるのだと予々言って居て、随分自分も御説教を聞かされたものだ。夫でも虐待には熟々やり切れぬと見えて、

「来るッてエなア何時だろうナ、なまじ聞かされた丈に待遠うで仕方がねエ」

「御同様サ、今日聞き込んだが、二、三日前に這入って来たバツクの(東京下りのハイカラ)生ッ白れエ給仕上りの野郎に聞いたんだが、議会で政府のアラ捜しより能の無え議員が、大分鋭く監獄部屋の件で内務大臣に喰って掛ったそうな、責任塞げにでも、役人に調査材料を集めに派遣すのだとサ。何れ議会の開期中だから、左様遠くもあるめエ、然しネ、オイ、斯様一目瞭然の事実を山の鬼共はどう糊塗す積かナア、一寸思案が付かねエがナア」