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めらはかせのふしぎなはんざい
目羅博士の不思議な犯罪
江戸川 乱歩
「文藝倶楽部 探偵小説と滑稽小説号」博文館、1931(昭和6)年4月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,493 字 · 31 页
一
一
私は探偵小説の筋を考える為に、方々をぶらつくことがあるが、東京を離れない場合は、大抵行先が極っている。浅草公園、花やしき、上野の博物館、同じく動物園、隅田川の乗合蒸汽、両国の国技館。(あの丸屋根が往年のパノラマ館を聯想させ、私をひきつける)今もその国技館の「お化け大会」という奴を見て帰った所だ。久しぶりで「八幡の藪不知」をくぐって、子供の時分の懐しい思出に耽ることが出来た。
ところで、お話は、やっぱりその、原稿の催促がきびしくて、家にいたたまらず、一週間ばかり東京市内をぶらついていた時、ある日、上野の動物園で、ふと妙な人物に出合ったことから始まるのだ。
もう夕方で、閉館時間が迫って来て、見物達は大抵帰ってしまい、館内はひっそり閑と静まり返っていた。
芝居や寄席なぞでもそうだが、最後の幕はろくろく見もしないで、下足場の混雑ばかり気にしている江戸っ子気質はどうも私の気風に合わぬ。
動物園でもその通りだ。東京の人は、なぜか帰りいそぎをする。まだ門が閉った訳でもないのに、場内はガランとして、人気もない有様だ。
私は猿の檻の前に、ぼんやり佇んで、つい今しがたまで雑沓していた、園内の異様な静けさを楽しんでいた。