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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
されば初心のかた/″\がけいこをなされますときはその四十八のつぼに「いろは」の四十八文字をあてゝしるしをつけ、こゝろおぼえに書きとめておかれますので、このみちへおはいりなされた方はどなたも御存知でござりますけれども、とりわけめくら法師どもは、文字が見えませぬかわりには、このしるしをそらでおぼえておりまして、「い」と申せば「い」のおと、「ろ」と申せば「ろ」のおとをすぐにおもい浮かべますので、座頭同士がめあきの前で内證ばなしをいたしますときには、しゃみせんをひきながらその音をもって互のおもいをかよわせるものでござります。ところでいまの不思議な合いの手をきいておりますと、
ほおびがあるぞ
おくがたをおすくいもおすてだてはないか
と、そういうふうにきこえるのでござります。これはこゝろのまよいではないか、何しにいまごろそんなことを申されるかたがあるものか、よしやそら耳でないにしてからが、たま/\音の組み合わせがしぜんとそうなっているまでだと、いくたびもおもいかえしておりますうちに、又もや朝露軒どのは、
いかにせん
わがかよひ路の
関守は
関もゆるさず
なか/\に