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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
わたくし生国は近江のくに長浜在でござりまして、たんじょうは天文にじゅう一ねん、みずのえねのとしでござりますから、当年は幾つになりまするやら。左様、左様、六十五さい、いえ、六さい、に相成りましょうか。左様でござります、両眼をうしないましたのは四つのときと申すことでござります。はじめは物のかたちなどほの/″\見えておりまして、おうみの湖の水の色が晴れた日などにひとみに明う映りましたのを今に覚えておりまするくらい。なれどもそのゝち一ねんとたゝぬあいだにまったくめしいになりまして、かみしんじんもいたしましたがなんのきゝめもござりませなんだ。おやは百姓でござりましたが、十のとしに父をうしない、十三のとしに母をうしのうてしまいまして、もうそれからと申すものは所の衆のなさけにすがり、人のあしこしを揉むすべをおぼえて、かつ/\世過ぎをいたしておりました。とこうするうち、たしか十八か九のとしでござりました、ふとしたことから小谷のお城へ御奉公を取り持ってくれるお人がござりまして、そのおかたの肝いりであの御城中へ住み込むようになったのでござります。