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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
ことか。おおかたそのお侍は忠義一途にとのさまのおあとをしたい、此処を御じぶんの死に場所とさだめておられたのでござりましょうか。さすればわたくしとても、おくがたの御せんどをみとゞけずに逃げるという法はないと、そうおもいましたことでござりますけれども、でもこのお児をおたすけ申さなんだら、さぞやおふくろさまがおうらみあそばすことであろう、弥市、おまえはわたしのたいせつなむすめをどこへ捨てゝ来たのですと、あの世でおとがめをこうむったら申しわけのみちがない、こうして背中へおのせ申すようになったのはよく/\のえんというものだからと、そんなふうにもかんがえられましたし、それに、わたくし、ほんとうはそんなことよりも、せなかのうえにぐったりともたれていらっしゃるおちゃ/\どのゝおんいしきへ両手をまわしてしっかりとお抱き申しあげました刹那、そのおからだのなまめかしいぐあいがお若いころのおくがたにあまりにも似ていらっしゃいますので、なんともふしぎななつかしいこゝちがいたしたのでござります。まご/\していれば焼け死ぬというかきゅうの場合でござりますのに、どうしてそのようなかんがえをおこしましたやら、まことに人はひょんなときにひょんなりょうけんになります