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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

誓紙は明日さっそく使者にもたせて織田家へかえしてしまいましょう、信長いかに虎狼のいきおいにほこっておってもえちぜんぜいと力をあわせて無二の一戦をいたすならば、やわか彼を討ち取れぬことがござろうぞと、きっぱりと仰せになりましたので、そのうえは仕方なく、みなが決心をかためたのでござります。

しかしそのゝちも、いくさ評定のたびごとに御いんきょとながまさ公との御料簡がちごうて、とかくしっくりいかなんだようでござりました。ながまさ公は名将のうつわでいらっしゃいますし、ゆうきりん/\たる日ごろの御きしょうでござりますから、出足のはやい信長をてきに廻してこうゆる/\としていてはならぬ、こちらから逆にせめのぼって一とかっせんした方がよいと、そう云うおかんがえでござりましたけれども、御いんきょは年よりのくせで、なにごとにも大事をとろうとなされますので、かえって不利をまねくようになりました。信長公がえちぜんから都へ引きとられましたときにも、此のあいだに朝倉ぜいと一手になって、美濃へきり込んで、岐阜をせめおとしてしまおう。さすれば信長さっそくに馳せくだろうとするであろうが、江南には佐々木ろっかくの一族がいるからやす/\通す