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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
もので、申すもおはずかしい、もったいないことながら、あゝ、そうだった、自分がおしろへ御奉公にあがってはじめておりょうじを仰せつかったころには、お手でもおみあしでも、とんと此のとおりに張りきっていらしったが、なんぼうおうつくしいおくがたでもやはり知らぬまにおとしをめしていらしったのだと、ふっとそうきがつきましたら、たのしかったおだにの時分のおもいでが糸をくるようにあとから/\浮かんでまいるのでござりました。いや、そればかりか、お茶々どのゝやさしい重みを背中にかんじておりますと、なんだか自分までが十年まえの若さにもどったようにおもわれまして、あさましいことではござりますけれども、このおひいさまにおつかえ申すことが出来たら、おくがたのおそばにいるのもおなじではないかと、にわかに此の世にみれんがわいて来たのでござります。こうおはなし申しますと、たいへん長いことぐず/\いたしておりましたようでござりますが、そのじつほんのわずかのあいだにこれだけのしあんをめぐらしたのでござりまして、そうと決心がつくよりはやくもうわたくしはけぶりのなかをくゞりぬけ、「おひいさまをおぶっておりますぞ、道をあけて下さりませ」