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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
御恩をうけていらっしゃるはずでござります。世間のうわさでは、太こうでんかゞ御りんじゅうのみぎりにはあのお方をおんまくらべにおよびなされて、秀頼のことをたのんだぞよと、くれ/″\も御ゆいごんあそばされたと申すではござりませぬか。われ/\のようなにんげんでもそれほど人にたのまれましたら義をたてとおすことぐらいはこゝろえておりますのに、あのおかたは、たかい声では申されませぬが、権現さまの御いせいにへつらってとよとみ家のだいおんをおわすれなされ、おもてに忠義をよそおいながらかんとうがたに内通されていらしったのでござります。いえ、いえ、それは、どなたがなんと申されましょうとも、そうにちがいござりませぬ。理くつはつけようでござりますから、いちのかみどのゝ御苦心をおほめになるかたもござりましょうが、かりにも敵がたの大炮の役をひきうけられて、あろうことかあるまいことか、お主のわかぎみと北の方のいらっしゃるところへ玉をうちこむようなおかたが、なんで忠臣でござりましょうぞ。うき世をすてためくらあんまにもそのくらいなことはわかります。それゆえあのときはいちのかみどのがにくゝてにくゝて、眼さえみえたら、陣中へしのびこんで一と太刀なりとおうらみ申したいとおもったほどでござりました。