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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

とおもうがと、ねんごろな御諚でござりました。おしろの中ではよいところへ扱いがはいったと云ってよろこぶ者もあり、いや/\、これは織田どのゝほんしんではあるまい、妹御のおいちどのを助けだしておいてから、殿にお腹をめさせようと云う所存であろうと申す者もあり、評議はまち/\でござりましたが、ながまさ公は使者にたいめんあそばして、おこゝろざしのほど忝く存じますけれども、かようになりはてゝ何を花香と世にながらえましょう、たゞ討死をとげるつもりでござりますから、御前へよきなにお伝え下されと仰っしゃって、いっこうに承引なされませなんだ。のぶなが公は、さては自分を疑うとみえる、こちらはしんじつに申すのだから、ぜひ討死をおもいとまって、こゝろやすく立ちのくようにと、さいさん使者をよこされましたが、いったん覚悟をきわめたうえはと、いかに申されてもおきゝ入れがござりませなんだ。それで、八月二じゅうろくにちの宵に、御菩提寺の雄山わじょうをおまねきになりまして、小谷のおくの曲谷のいしきりに石塔をお切らせになり、徳勝寺殿天英宗清大居士とかいみょうをえりつけられ、その石とうのうしろをくぼめて御自筆の願書をおこめになりました。