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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
の中は水をうったようにしずかでござります。おりふし秋もなかばのことでござりまして、おうみの国もほっこくにちかい山の上の、夜もあけきらぬほどの時こくでござりますから、まつざにひかえておりますと、肌さむいかぜがひえ/″\と身にしみ、お庭の方でくさばにすだくむしのねばかりがじい/\ときこえるのでござります。と、ふいに広間のすみの方で、どなたか一人しく/\とすゝりなきをはじめましたら、それまでじっとこらえていらしったおおぜいの衆が、あちらでもこちらでも、いちどにしく/\と泣き出されましたので、がんぜないお子たちまでがこえをあげてお泣きになりました。「これ、これ、そなたはいちばんとしかさのくせに泣くということがありますか、かね/″\云うてきかせたのはこゝのことではありませぬか」と、おくがたはこんなときにも取りみだした御様子がなく、しっかりしたおこえでお茶々どのをお叱りになって、嫡男万福丸どのゝ乳母をお呼びになりまして、「さあ、和子から先にしょうこうをするのですよ」と仰っしゃるのです。それでいちばんに万福丸どの、二ばんには当歳の若が御焼香をすまされますと、「お茶々、そなたの番ですよ」