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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

お茶々どのははか/″\しい御へんじもなさらずにしぶ/\抱かれていらっしゃいましたが、このひとが父御のしろをせめおとした一方の旗がしらかと、おさなごゝろにもにくゝおぼしめしましたものか、ふと秀吉公のかおをおさしなされ、「そなたは猿に似ているのかえ」とおっしゃりましたものですから、ひでよし公もすこし持てあまされまして、「さようでござります、わたくしは猿に似ておりますが、お姫さまはお袋さまにそっくりでいらっしゃいますな」と申され、はっ、はっ、はっと、わらいにまぎらされました。その後もおいそがしいなかをぬけめなくおみまいにおいでなされ、何やかやとひめぎみたちにまで御しんもつをなされまして、ひとかたならぬおこゝろぞえでござりましたから、おくがたも、「藤きちろうはたのもしいものじゃ」と仰っしゃって、気をゆるしていらっしゃいましたけれども、わたくし、いまからかんがえますのに、お市どのゝ世にたぐいない御きりょうにはやくも眼をおつけなされ、ひとしれず思いをよせていらしったのではござりますまいか。もっとも主人のぶなが公のいもうと御であらせられ、けらいの身ではおよびもつかぬ