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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
のをわすれましたが、最初はわたくし、さむらい衆の揉みりょうじをいたすということでござりましたけれども、城中たいくつのおりなどに、「これ、これ、坊主、三味せんをひけ」と、みなの衆に所望されまして、世間のはやりうたなどをうとうたことがござりますので、そんな噂が御簾中へきこえたのでござりましょう、唄の上手なおもしろい坊主がいるそうなが、いっぺんその者をよこすようにとのお使いがござりまして、それから二三ど御前へうかゞいましたのがはじまりだったのでござります。はい、はい、いえ、それはもう、あれだけのお城でござりますから、武士の外にもいろ/\のひとが御奉公にあがっておりまして、猿楽の太夫なども召しかゝえられておりましたので、わたくしなどが御きげんを取りむすぶまでもござりませぬけれども、あゝ云う高貴なお方には却ってしもざまのはやりうたのようなものがお耳あたらしいのでござりましょう。それにそのころはまだ三味線がいまのようにひろまってはおりませんで、ものずきな人がぽつ/\けいこをするというくらいでござりましたから、そのめずらしい糸のねいろがお気に召したのでござりましょう。